東京高等裁判所 昭和37年(ネ)1341号 判決
そこで、控訴人の錯誤の主張につき判断するに、前記認定の各事実に徴すると、控訴人は、金十万円を自ら借り受けられるものと信じ、その消費貸借契約及びこれに関する本件不動産についての担保設定契約を締結するため、表示機関たる石井に自己の印章を托して右契約締結の意思を書面で表示させようとしたものと認めるのが相当であり、石井が前記乙第二号証に控訴人のため押印をした結果、控訴人の内心の意思に反し、極度額金二百万円の他人の債務について本件不動産に根抵当権を設定する意思を表示したこととなつたわけであるから、民法第九十五条本文を類推適用すべき場合に該当し、しかもその錯誤は契約内容たる法律行為の要素に存するものということができる。右錯誤につき、被控訴人は、表意者たる控訴人に重大な過失があると主張するところ、前記認定のように、控訴人は右乙第二号証が作成されるに際し直接関与しなかつたけれどもなお別室に控えていたのであるから、作成された同証を閲覧することは一挙手一投足の労であつたのにかかわらず、同証を調査確認しなかつたのは右の労を惜んだものであり、控訴人には右錯誤につき重大な過失があつたものというべく、控訴人が一介の農民であることはこの判断を動かす資料とはならない。よつて、同条但書の類推により、控訴人は自ら本件根抵当権設定契約の無効を主張することができない。
(小沢 池田 賀集)